序曲後暫く3人の男性歌手による賑やかな曲が続きますが、この曲で始めて女性歌手の登場。「フィガロ」の伯爵夫人の場合もそうですが、それまでの曲調を一転しっとりとした歌にする事で、物静かで落ち着いた淑女をより印象的にしています。この曲におけるファゴットの音楽的な可能性を2回に渡って考えていきます。
譜例2は“ご覧なさい、妹よ(Ah Guarda, Sorella)”冒頭部ファゴットパート、八分音符=60程度で演奏され、後に「ああ、ご覧なさい、妹よ」という歌詞をつけて歌われるテーマです。弦楽器のpオブリガートでしっとりと始まります。
①は前述の歌詞の「Ah」の部分にあたります。このAhが何を意味しているのか、男性には永遠に理解が出来ないかもしれませんが、スタッカートの意味はモーツァルトのスタッカートに対する考え方、時代の慣習、また歌詞の単語の関係から考えて「レガートにしない」または「間をあけて」が正しく、跳ねる、短く、という意味ではありません。テヌートスタッカートと捉えると良いでしょう。
このフレーズ中最も歌うべき音符は②です。ゆったりと暖かい息を楽器に入れていきます。すると響きが増して自然に次の小節へ向かう事が出来ます。③の直前にクレッシェンドしても③にアクセントがついている様に聞こえてしまい良くありません。③を一番良い響きで聞かせる為に、その前から充分に歌っている事が重要です。
④からは基本的にその前と同じですが、⑤を先ほどの②とは逆に「さらっ」と演奏すると⑥も内向きな音になり、所謂「エコー」と同じ効果が生まれ印象深くなります。また⑥と③の響きが全く違ってくるので、その対比によってしっとりした大きなフレーズ感を得る事が出来ます。
⑦はヴァイオリンが繊細な箇所で、ファゴットもppで優しく始めます。そして終わりに向かって若干<>(クレッシェンド・ディミヌエンド)するととても美しいです。Ahの余韻、といった所でしょうか。
リードを圧力でコントロールする事はとても重要で、やはり図5Y部及び赤、水色部へのアプローチが有効です。Y部は全体的に薄くしていきますが、反応が悪かったり、あまり振動しないリードの場合は特に中心部を薄くしていくと効果的です。また今回の曲を吹いてみて、リードが「暴れる」と感じる場合は黄色部を削ると落ち着きます。⑦のppが楽になる効果もあります。また譜例の②(CisやA)の響きが硬く感じられる場合には青色部を削ると良いでしょう。