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Reed and Music

いわゆる「ドイツ的」 J. ブラームス ピアノ協奏曲第一番ニ短調 作品15 第1楽章より - 1

 ファゴット・ファーストステップ(譜例15参照)でも取り上げたJ.ブラームスのピアノ協奏曲について、音楽的な可能性を考えてみましょう。

 非常に重厚で力強く、情熱的なこの曲は、当初はピアノ連弾曲として書かれ、その後クララ・シューマン等の協力の下現在の形に至るまで、3年の歳月を要しました。力強い精神の鼓動、不安感、また穏やかな憧れを表現するフレーズの数々がファゴットに割り当てられています。この曲がオーケストラオーディションの課題曲になる事はあまりありませんが、ファゴット奏者の技術と音楽性が問われる、難曲と言えるでしょう。

譜例16
いわゆる「ドイツ的」 J.ブラームス ピアノ協奏曲第一番ニ短調 作品15 第1楽章より -1

 譜例16は、この曲の第1楽章、導入部からピアノソロへ受け継ぐ部分のファゴットパートを抜粋したものです。この箇所に至る以前まで、全オーケストラにより同じモチーフがffで演奏され、「興奮の絶頂」における激しい鼓動が表現されており、そこからピアノソロによる「冷静で深刻」な第2主題(p)へ至るまでの、精神状態が変化する過程を表現している箇所と言えます。稚例で申し訳ありませんが、その変化を仮に演劇で表現した場合どうなるのか、台詞の例を挙げてみましょう。

 「なんという痛み! この痛みこそ、 神の、 科した、 運命なのだろうか‥」

 この台詞には何ら意味がありませんが、譜例16に仮にこの様に台詞を当てはめてみると、音符という抽象記号に対して、何らかの具体的なイメージをもつ事が出来ます。「この痛みこそ神の科した運命なのだろうか‥」という風な一文ではなく、一語一語を区切って「間を取って」いる所もポイントです。いずれにしても、「音符を喋る」という意識を持つ事が大変重要です。

 のffから始まる連続した小さなモチーフ(一語)によるこの収束の形は、各モチーフの単位で「段階的」に音量を下げていく事で実現します。即ち

 「(ff)なんという痛み! (f)この痛みこそ、 (mf)神の、 (mp)科した、 (p)運命なのだろうか‥」

 となります。

 実際の楽譜には書かれていませんが、の様にアクセント・スタッカートで演奏すると、強く重い響き、角の立った響きとなり、また一音一音がしっかり発音されて、より真に迫った、いわゆる「ドイツ的」な音楽にする事が出来ます。③④間にディミヌエンドがあるのは、弱拍から強拍へ向かう際に音が自然に大きくなってしまう事を防ぐ為で、モチーフを「一語」として完結、成立させる意味もあります。

 あとはモチーフ単位で段階的に弱くしていきます。ではアクセント・スタッカートでしたが、次はスタッカートのみ、最後は何もなし、という風に、単に音量を下げていくだけでなく、「音の表情」も同様に変化させると良く、精神状態が「動」から「静」へ移り変わる様子を、一層効果的に表現する事が出来ます。最も違いが現れる⑤⑥の箇所を③④と比較してみると、音楽が変化している事を実感出来ると思います。

 強拍弱拍の観点から見るとのフレーズはから始まる様にも見えますが、これは句読点の位置が違っており(神の科し、た運命なのだろうか‥)、誤りです。句読点は⑥と⑧の間にあるのが正しいのですが、結果としてが遅れてしまいます。それはで終止する事でリズムが「ほっとしてしまう」事に基因しています。例えばスキップの途中で地面にべたりと足をつけてしまい、次のステップが遅れる、というイメージに似ています

 故に最も重要なのは、のリズム感を「軽く」する事です。具体的には、⑤から⑥へいく際に、やや速く、やや短く、ふっと「抜く」イメージで演奏してみましょう。そして抜いた息で「自動的に」へ入ります。この「抜く→自動的に次へ」という感覚が掴めると、リズム感、とりわけ農耕民族にとって苦手とされる三拍子の感覚が、容易に理解出来るはずです。

 ⑦の<>は、フレーズが平面的になるのを防止する為の物で、息が固まるのを防いで柔らかい響きにする意味もあります。また、若干テヌートで演奏すると、一言一言に深みが加わってとても良く、ファゴット独特の美しいハーモニーがより印象的になるでしょう。

図5

 音量の差やタンギングのキャラクターの差が出にくいと感じる場合は、リードの設定を見直してみましょう。Y部を削ってみてリードの開きが狭くなったら一番ワイヤーを立てます。からのアクセント・スタッカートで息がつまる感じがする場合は、一番、二番ワイヤーを立てる他、二番ワイヤーを締めるのも若干の効果があります。また⑤⑥で音程が上ずってしまう場合は青色部を削る他、一番ワイヤーを緩めるのも効果があります。いずれの場合も試奏をしながら、少しずつ試してみると良いでしょう。

 ドイツやオーストリアなどドイツ系のオーケストラでは、②の様な箇所を一つ一つしっかり演奏するのは「お約束」となっていて(演歌にはコブシを握って、というのと「お約束」という点で同じです)、特にブラームスなど、強さや重厚さに「凄味」が加わって、心の震える名演奏となるのですが、ラヴェルの様な曲を取り上げると、指揮者に「やりすぎないように」と窘められたりします。ベートーヴェン自ら音符の一つ一つに書いたfの記号を見て、その意味は単なるfではなく、内気でお喋りは苦手だけれど音の一つ一つに思いの全てを込めたのだ、そういう音楽なんだ、というメッセージであり、その精神こそが「ドイツ的」なのではないか、と筆者は感じるのです。

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