第一幕終盤のアリア「恋のそよ風」。「コシ」が実は俗的なオペラではなく、恋愛の純粋性や美しさを描いた物である事を象徴する曲です。今回はこのアリアにおける管楽器のハーモニーを題材にします。
アンサンブルの基本は「吸う息」を合わせる事です。例えば指揮者が何の前ぶれもなく棒を振りだしても、アンサンブルは成立しません。その前の「助打」すなわち例えば「せえのっ」がある事によって始めて、一緒に出る事が出来るのです。「じゃんけん」と「ぽん」の関係と同じだと言えます。またこの「助打」は、その種類によって結果が変わります。例えば力強く「せえのっ」とすると強い音で「ジャン」となりますが、静かにそっと「せえの‥」とすると、「そっ」となります。「吸う息」を合わせるとはすなわち「助打のキャラクター」を合わせる、という事ができます。
さて、「恋のそよ風」は、婚約者の眠る寝室、その窓の下で一人しばしの別れに恋を謳う曲です。曲中のファゴットのハーモニーが本当に美しく、形容する言葉がありません。譜例4はその部分を抜粋した物で、八分音符=48~60程度で演奏されます。スラースタッカートは、テヌートの様に生々しくなく、スタッカートの様に現実的でもなく、と解釈できます。大抵の場合スラースタッカートは「含む所の多い」表現記号です。pもこの場合「小さく」というよりも「静かに、穏やかに」といった解釈がぴったりします。いずれにしても、「アンダンテ・カンタービレ」でありpである、そういう響きである事が重要です。
恋心がゆえに苦しみまた喜ぶ時、叫びでもささやきでもない静かな声が、ひっそりととても大切に、まるで天使のため息の様に胸を打つ、そんな切なる想いが一つ一つの音に凝縮されています。実際に天使を見たことのない我々にとって、それを音にする事はとても難しいですが、愛し慈しむ気持ちの時、実は彼らは我々の心の内にいて、そっとため息をついているのかも知れません。
オーケストラや吹奏楽といった違いに関わらず、こういったハーモニーの箇所は実際に良く出てきます。ストレスなく演奏する為には息の圧力で発音する事と響きをコントロールする事がとても重要です。図5の赤、紫、水色部、Y部がそれぞれ厚すぎたり、第1ワイヤーが立ちすぎてリードの開きが大きかったりすると、発音や響きの維持に息のスピードが必要になりコントロールが難しくなるので注意が必要です。